桃蜜譚
3.ほんとうの強さ
――むしゃくしゃする。猿はのことを、どうにも気に入りませんでした。 戦えるわけでもないのに、桃太郎はどうしてあんな足手まといを仲間に加えたのか。
「はぁ……」
ため息をつきながら、猿は森を歩いていました。仲間の元を離れ、一人で苛立ちを紛らわせようとしていたのです。
木々の間から木漏れ日が降り注ぎ、風が葉を揺らしていました。よく晴れた暖かな陽気に包まれても、猿の心は晴れません。
その時でした。
大地を揺らすような咆哮が響き渡り、木々の間から何かが姿を見せました。
現れたのは、巨大な体を持つ鬼でした。
「ヒカリノ……ミコ……ヨコセ……」
鬼はぎこちない言葉でそう言いました。
「は? 何言ってんだ?」
そんなものは知りませんし、どのみち答えるつもりなどありません。猿はむしゃくしゃしていたのです。
「知るかよ、んなもん!」
猿は素早く木の幹を蹴り、鬼の懐に飛び込みました。そして自慢の鋭い爪を振り下ろします。
ですが。
「ぐっ……!?」
指に鈍い痛みが走ります。鬼の皮膚は岩のように硬く、浅い傷しかつけられません。
鬼の大きな手が振り下ろされました。猿は素早く跳び退きますが、次の瞬間には鬼の拳が迫ります。
猿の体は木に叩きつけられました。
「くそっ……!」
立ち上がろうとする猿でしたが、鬼はすでに次の攻撃の準備をしています。
――まずい。
そう思った瞬間でした。
「猿くん!」
それは、あのの声でした。顔を上げると、小さな体でこちらに駆け寄って来る姿が見えるではありませんか。
「馬鹿っ! 来るんじゃねぇ!」
鬼の真っ赤な目がをとらえました。歓喜のような咆哮を上げ、振り上げた手の目標をに切り替えようとします。
「猿くんを……いじめるなあああああっ!!」
の身体から眩い光が溢れ出しました。それはまるで太陽のように輝き、周囲を焼き尽くします。
「グ……アァァァァ!!!」
鬼の絶叫が森を揺らします。光を浴びた鬼の体から灼熱の炎が噴き上がり、崩れ落ちていきました。
残ったのは、焼け焦げた地面、炭になった木々、そして、もはや原形を留めていない、鬼だったものでした。
「お前……一体……?」
はキョトンとした顔で答えました。
「えっ、わたし、何かした?」
無邪気に小さく首をかしげます。
「それよりもね、もう晩ごはんだから、戻って来なさいって桃太郎くんが」
それだけ伝えると、は夕餉の支度のために帰っていきました。
その場に残された猿はしばらく呆然としていました。
力こそが全て、それが自分の世界だった。
でも――
力とは、強さとは、一体なんなのだろうか。
「……おもしれーヤツ」
猿は痛む背中をさすりながら立ち上がり、の後を追いました。
***
森の奥。
誰にも気づかれぬよう、じっと気配を潜めてその一部始終を見ていた影がありました。
「これは運命の悪戯か」
そこには仮面の男が、不気味な笑みを浮かべて立っていました。