桃蜜譚
2.勝負
森の中。犬とは晩ご飯の材料を探すために歩いていました。「いいかオマエ、ちょっと桃太郎サマにかわいがられてるからって、調子に乗るんじゃねーぞ」
犬は森をずんずんと進みます。の小さな体では、後ろからついていくのがやっとのようです。
「オイラはな、桃太郎サマのけらいの中で、いちばん偉いんだ。オマエみたいなどんくさいヤツとは格が違うんだよ」
「そうなんだ。犬くんはすごいね」
よくわかってないようなぽやぽやとした物言いに、犬はムッとして耳を立てました。
「格の違いってやつを見せてやる。どっちが多く食料を集められるか勝負だ!」
「うん!」
は元気よく頷きます。
こうして、犬との対決が始まりました。
オニグルミ、ヤマナシ、アケビ。犬は鼻を利かせてたくさんの獲物を集めています。
一方、はといいますと、食べられる木の実とそうでないものの区別もつかないようで、困ったようにうろうろしているだけでした。
――なんだ、勝負にもならないじゃないか。
すると、草むらから一ぴきのリスが飛び出してきました。犬はリスを追いかけようとします。その時でした。
とつぜん足元が崩れ、犬は勢いよく滑り落ちました。
「イテテ……」
見ると、前足から血が出ています。
そこにがやってきました。
彼女は心配そうに犬を見つめると、そっと傷口に手をかざしました。
すると、やわらかな光があふれ、みるみるうちに傷口が塞がっていくではありませんか。
「これで大丈夫」
「お、オマエ、いったい……」
犬はをまじまじと見つめました。
小さな体、ふわふわの毛並み、宝石のような瞳――その姿が、なんだかやたらと可愛く見えました。
(いや、しっかりしろ)
犬はぶんぶんと頭を振り、気を取り直すと、そっぽを向いて咳払いをしました。
「……ま、まあ、その、助かったよ。ありがとな」
その言葉にが微笑みます。その笑顔があまりにもまぶしくて、犬は慌てて目を逸らしました。
「でっ、でもな! 勝負はオイラの勝ちなんだからな!」
「うん、そうだね」
にこにこと笑いながら言う。その姿を犬は直視することができません。
――オイラの負けだ。
何に負けたのかは犬自身よくわかりません。でもその笑顔に勝てるわけがありませんでした。
「ほら、帰るぞ」
「うん」
やわらかな光が差す森の中を、二人は並んで帰っていきました。