桃蜜譚
~これまでのあらすじ~
桃から生まれた桃太郎はすくすくと成長し、やがてたくましい青年になりました。そんな中、鬼ヶ島の鬼たちが村を襲い人々の財産を奪っていることを知った桃太郎は、自ら鬼退治に向かう決意をしました。
おばあさんに作ってもらったきびだんごをお守りにして、桃太郎は冒険の旅へ――
1.運命の出会い
桃太郎が山を歩いていると、草むらから犬が一ぴき出て来ました。「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
「これから鬼の征伐に、ついてくるならあげましょう」
犬はきびだんごを一つもらって、桃太郎について行くことになりました。
山を下りてしばらく行くと、森の中に入りました。すると木の上から猿が一ぴき下りて来ました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
「これから鬼の征伐に、ついてくるならあげましょう」
猿もきびだんごを一つもらって、桃太郎について行くことになりました。
森をぬけて、こんどは広い野原へ出ました。すると空の上から雉が一わ飛んで来ました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
「これから鬼の征伐に、ついてくるならあげましょう」
雉もきびだんごを一つもらって、桃太郎について行くことになりました。
野原を出ると、大きな川がありました。すると川のほとりに誰かが倒れているのが見えました。
それは桃太郎が見たことのない、ふわふわとした毛並みの、まだ幼い獣のようでした。それは言葉に表せないほど愛らしく、それと同時に美しく、可愛らしいのでした。
そばに近付くと獣は目を覚まし、桃太郎を不思議そうに見上げました。その瞳は吸い込まれそうなほど神秘的で美しく、左右で色が違うオッドアイで、右目は磨き抜かれたアクアマリンのように透き通っていて海のように深く穏やかで見る者を包み込むような優しい光をたたえており、左目は極上のトパーズのようにきらめいてその黄金の輝きは太陽の光をそのまま閉じ込めたかのように暖かくまばゆいばかりでした。
「あなたは、誰?」
可愛らしく美しい声でその獣はたずねました。
「僕は桃太郎。鬼を退治するために旅をしているんだ。君は?」
「……」そう答えるとは哀しげな目をしてうつむきました。「ほかは、なにも覚えてない……」
「記憶喪失というやつか」
さてどうしたものかと桃太郎は困りました。
「おなかがすいているだろう、これを食べるといい」
きびだんごを差し出すと、はくんくんとにおいをかいだあと、小さく口を開けてぱくりとたべました。その可愛らしい仕草は長旅で疲れた桃太郎の心をほんのひととき癒したのでした。
「それじゃあ僕たちはもう行くね」
「まって、わたしも連れてって」
「ついてこないほうがいい。僕たちは悪い鬼を退治するために旅をしている。それはとても危険な旅なんだ。君のような子を危険な目に合わせるわけにはいかない」
「やだ! 置いていかないで!」
涙にうるんだ透き通った瞳が桃太郎を見上げます。すがるように見つめるを放っておけるような桃太郎ではありません。
「わかった、いっしょに行こう」
の顔がぱあっと明るくなりました。
こうしても、桃太郎について行くことになりました。